階段

コロブン


「コロブン、ここから階段だから気を付けて」

妻は僕の言うことにしたがって、ゆっくり階段を降りていきます。
一歩一歩、ゆっくりと、手すりにつかまって降ります。

「たけちゃん、階段まだある?」

下に降りるにしたがって暗くなり、足元がほぼ見えなくなっているので、
恐る恐る訊いてきます。

「あと3段だよ。3、2、1、はい、終わり。ここからまた階段だよ」
「どこから?ここから?」
「うん、ここから」

その後も入り口をくぐって、いくつか段差のある所を通過して、
ようやくテーブル席に着きます。

外で食事をする時は、なるべく階段の昇り降りが無いお店を選びますが、
どうしてもそのお店がいいという場合は、今回みたいに慎重に階段を
降りています。

自分は自衛官時代の名残からか、一人の時はほぼエレベーター、
エスカレーターの類は使わずに階段を使う習慣ができているので、
妻と一緒に外出した時でもたまに率先して階段を使おうとしてしまいます。
歩くスピードも考え事をしているときなどついついいつものペースで
歩いてしまい、今でもよく妻からお叱りをうけています。

「もっとゆっくり歩いてよぉ!」
「障害者の付き添いだって自覚が無いでしょ!」

老人ホームで介護士をしていたこともあり、障害者目線で行動することには
自信があったのですが、視野障害の場合は、普段家にいる時は健常者と大して
変わらないので、つい障害のことを忘れがちになってしまうようです。
相手の目線で物事を見るということは、簡単なようで難しいです。

とある大学病院では、こんなことがありました。

その時は、1階から2階に行くだけなので、手をつないでゆっくりと
階段を昇っていました。
少々の昇りなので階段を使い、下りはエレベーターで降りるつもりでした。

もう少しで2階に到着する時に、すれ違いざまに一人のお年寄りが
吐き捨てるように言ってきました。

「病院で手をつないでイチャイチャしてるんじゃねえよ!」

僕も妻も目が点になってしばらく呆然としていました。

「別にイチャイチャしてるわけじゃねえづら!
 手をつながねえと危ねえからつないでるだけづらよ!」
 
と、思わずドカベンの殿馬口調で言い返しそうになりましたが、
そこはグッとこらえました。

確かに並んで手をつなぐと階段狭くなりますしね。
事情を知らなければ邪魔以外の何物でもないですね。
でも、手をつないでいたことで、転んで大惨事になることを
防げたことは多々あります。

団地の玄関階段を降りる時。
「うぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

鎌倉の源頼朝のお墓の石段を降りる時。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜っ!!」

USJの段差に気付かないでつまずいた時。
「はあ゛あ゛あ゛あ゛〜っ!!」

「たけちゃんと手をつないでいてよかった…
手をつないでなかったら大怪我してた…」

人というのは外から見ただけではわからない、
様々な事情をかかえているものです。
相手が素直に事情を話してくれるとも限りませんし、
また事情を聞いて理解してくれるとも限りません。

人と人が理解し合うということは、お互いの歩み寄り加減に
寄るところが大きいと思いますが…難しい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました