妻と結婚してから2年経った頃のことでした。
2回目の結婚記念日ということで、妻の発案で浅草で食事をすることになりました。
駅から少し離れたところで、昼食で鰻丼を食べている時に、
浅草寺にぜひ行こうという話になりました。
妻のお母さんの実家は、かつて築地の魚河岸で仲卸業者をしていました。
昭和33年10月に魚河岸の講が浅草寺に奉納した天水桶に、お母さんの実家が
関わっているということでした。
雷門をくぐって仲見世通りを歩き、浅草寺本堂前まで来ると、
本堂の左右両側に立派な天水桶がデンと構えていました。
「これよ、これ! ここにお母さんの実家の屋号があるの!」
妻はそう言って嬉しそうに左の天水桶に駆け寄ると、講に参加していた
業者の屋号や会社名が並ぶ面をじっくりと眺めました。
「あれ? こっちじゃないかな? 向こうの桶だったっけ?」
「コロブン! 転ばないように足元に気をつけてよ!」
早足で右の天水桶に移動した妻は、もう一度っじっくり探し始めて、
「あったあった! ここにあった! たけちゃん! ほら、早く来て!」
妻に呼ばれて見てみると、確かに妻が言う屋号がそこにありました。
久しぶりに天水桶を見る妻は、とても嬉しそうでした。
それから、妻が一度も行ったことがないと言うので、「浅草花やしき」に行きました。
ローラーコースターやお化け屋敷など、僕が子供の頃に体験したほぼそのままの
アトラクションをたっぷり楽しみました。
花やしきで遊んだ後は、舟和で休憩。
妻は葛餅、僕はお汁粉をいただきました。
舟和は全てが美味しい!
その後は、近くの商店街でウインドーショッピングをすることにしました。
妻はちょっと見たいものがあると言って宝石店へ行き、僕は昔ながらの日本のおもちゃを
扱うお店を見てみることにしました。
「たけちゃん、ちょっと!」
おもちゃを手に取って眺めたりしてると、突然妻から呼ばれました。
「買おうかなあと思っているものがあるんだけど、一緒に見てくれる?」
妻に付いて宝石店に行くと、高そうな真珠のネックレスが用意されていました。
「お葬式とか法事の時に付けていくのにいいかなと思うんだけど、どうかな?」
「なんかずいぶん高そうだけど値段は…21万!? いやいやいや! ちょっと高過ぎない?
もっと安いのにしておきなよ」
「自分の貯金から買うからたけちゃんには迷惑かけないよ。それに定価で買うつもりはないから」
「ん? どういうこと?」
「すみません、もう少し安くなりませんか?」
いきなり目の前で、妻は宝石店の店員さん相手に値切りの交渉を始めました。
店員さんはタジタジで困り顔、妻はニコニコの笑顔で値段はどんどん下がっていきます。
「う〜ん、もうちょっと安くしてよ。 一括払いで買うから…ね?」
「はあ…。 ではこのお値段でいかがでしょうか」
計算機を見せてはそれに妻が一言二言言って、店員さんがまた計算機に数字を打ち込みます。
そんなやり取りが何回か続いた後にようやく、
「で、ではこれでいかがでしょうか? これ以上は…もう完全に赤字です!」
「そうねえ…まあ、いいかな。 じゃ、買います」
ショーケースの上に置かれた計算機を覗き込んで見て、もう驚きでした。
「な、7万!? 定価の3分の1!? えっ、マジで!?」
帰りの駅に向かう途中で、ホクホク顔の妻に聞いてみたところ、
高い買い物を値切らず買うなんてあり得ないと言いました。
お母さんのお墓も350万円のところ、300万円に値切って買ったり、
パソコンや家電製品もいつも値切って買うとのことでした。
「コロブンてさ…結構すごい人だね…」
「そう? 普通じゃない?」
妻のことを、改めて普通の人じゃないなと感じた日でした。
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