ブラックかもしれない!?② -あるアロマショップ- 中編

ブラックな職場


前回からの続きです。

まだご覧になっていない方は、以下のリンクからどうぞ。


有料老人ホームを退職後、アロマショップオープンまで時間があるので、

スクールで勉強した教材を引っ張り出して復習していました。

そこにアロマショップの社長から電話がかかってきました。


「たけぞうさんですか?おはようございます。

 今、オープン前の準備をしているのですが、

 もしお時間あるようでしたら参加いただけますか?

 男性の方がいるととても助かりますので…」


従業員は女性しかいないと聞かされていましたので、

力仕事などで自分をアピールできる絶好の機会だと思いました。

それに少しでも生活費の足しになるお金が欲しいのもありました。


「はい!ぜひやらせて下さい!」


僕は二つ返事で引き受けると、翌日からもちろん準備作業に参加しました。

オープン前のショップに向かうと、二人の女性従業員がすでに先に来ていました。


「おはようございま~す!あなたがたけぞうさんですね!

 よろしくお願いしま~す!」


「はい、たけぞうです!こちらこそ、よろしくお願いします!」


元気よく挨拶を交わして、自己紹介をしました。


従業員の二人のうち一人は、トリートメントの豊富な経験を持つ

バリバリのアロマセラピストのAさん。

もともと他のショップで仕事をしていたところ、社長に引き抜かれてきたとのことでした。


そしてもう一人は、社長の愛弟子のBさん。

社長の元でアロマを学んだばかりで、社長に誘われて就職を決めたとのことでした。


他の従業員にも早く挨拶をしたいので、Aさんに訊いてみたところ、


「他の従業員はいませんよ。従業員は私たち三人だけです。

 あれ?社長から訊いてませんでした?」


「ええ…。本当に三人だけですか?ちょっと少なくないですか?」


「私も少ないからもっと増やした方がいいって言ったんだけど、

  これ以上増やせないんだそうです」


Bさんが残念そうにそう言いました。


なんだか嫌な予感というか胸騒ぎがしてきました。


そうこうするうちに、社長がそこに顔を出しました。

僕は挨拶を済ませると、社長に訊いてみることにしました。


「社長、従業員は三人だけなんですか?

 商品売ったり、トリートメントしたり、ワークショップやったりするんだったら、

 人手がもっと要ると思うんですけど」


「そうなんだけどねえ…。

 人件費もバカにならないのよ。

 売り上げが順調に伸びたら、人を増やすことも考えるから。

 それまではしばらく、わたしたち四人の少数精鋭でやっていきます」


ニコッと笑うと、社長は奥の社長室に入って行きました。


まあ、独立して一から始めるわけだから資金繰りも大変だよな…。

よし!ここは僕が奮起せねば!


やるべきことはたくさんありました。

収納棚の組み立て、商品のラベルや値札作り、各資料の作成などなど。

とにかくやれることから片っ端にやっていきました。


社長も非常に上機嫌なホクホク顔で、


「たけぞうさん、本当に助かります。

 こんなにいろいろやっていただいて…。

 お昼はみんなでお寿司を食べにいきましょうか。

 もちろん、私のおごりです」


そして連れて行かれたのは、高級寿司屋。

回転寿司以外で寿司など食べたことのない自分にとっては衝撃の美味さです。


好きなことやって給料もらえて、寿司まで食べさせてもらえるとは…。

こんな幸せなことが他にあるだろうか!


昼食だけでなく、業務が終わった後の夕飯も、

社長から何度もご馳走になりました。

四人で何度か食事を共にしているうちに、徐々にお互いの気心が知れてきました。

和気あいあいとした雰囲気でとても居心地がいい職場になりそうでした。


こんな調子で順調に進んでいたかに見えたある日のこと、

社長とBさんが何やら口論していました。


「なんで?これでいいじゃない?どこがダメだって言うの?」


「この配置ですと、商品が…お客様に…だから…」


会話の内容はよく聞こえませんでしたが、Bさんは自分が良かれと思ったことを、

一生懸命説明していました。


彼女はショップ店員の経験があり、商品のレイアウト方法など、こちらがなるほど!

と、思うような提案をいくつもしてくれていました。

こうやっていろんな意見をぶつけ合いながら、みんなでいいショップを作り上げていく。

改めて、いい仕事を選んだなと思いました。


そしてオープンが間近に迫ったある日、ついに1ヶ月が経ちました。

妻にももうすぐオープンで、準備も万端だと話しました。

妻も嬉しそうに、本当にいい所に就職できてよかったねと喜んでくれました。


「そう言えばさ、お給料っていつもらえるの?

 交通費もだいぶかかってるじゃない?

 早めにもらえるといいね」


「あ~、そうか、給料の話をしてなかったな…。

 銀行口座とかも聞かれていないし。

 4ヶ月、試用期間だから試用期間中は給料手渡しなのかな?

 仕事に夢中で全然気にかけてなかった」


「ちゃんと確認しておいた方がいいよ。

 でもこんなに毎日朝早くから遅くまで働いているんだから、

 結構いっぱいもらえちゃったりして」


次の日、早速給料について社長に聞いてみたところ、正式な雇用は

オープン日からだから、その前の労働については給料が出ないという

予期しない衝撃的な答えが返ってきました。


「ちゃんと契約書類書いたでしょ?

 ○月○日から最低4ヶ月は試用期間だって」


「えっと…では、交通費は出してもらえるんでしょうか?」


「出るわけないじゃない。

 ほら、それより早く仕事に入ってくれる?

 もうとっくに始業時間過ぎてるんだけど」


さっさとこの話を切り上げたいと言わんばかりに冷たくそう言い放つと、

社長は早足で社長室に引っ込んでいきました。

後に残された僕は、しばらく放心状態でした。


ほぼ1ヶ月丸々働いて給料も交通費も出ない!?

そんなバカな話があるか!


そう思って社長室に怒鳴り込もうとしましたが、

すんでのところで自制しました。


せっかくアロマテラピーの仕事に就いたんだ…。

ここで問題を起こしたりしたら…ここは我慢だ!


僕は一度大きく深呼吸をして、仕事に向かいました。

そしてこの後の僕は、大きな挫折を味わうことになるのです。


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